ぼくらはこうして育った
ぼろや
継ぎのあたった服
だぶだぶのお下がりを着
穴のあいた靴や靴下をはき
蚤や蝨にたかられ
頭から白い粉をどさっとかけられ
霜焼けやあかぎれ
白雲や疥癬やおできに悩まされ
尻から長い紐をひり出し
苦い苦い黒い液体を
無理やり呑まされ
鮫のように
いつも空腹に苦しめられ
芋の蔓や
茎
かぼちゃの葉っぱ
木の皮や木の根っこ
口に入るものならなんでも口に入れ
青っぱなを垂らし
上着の袖を鼻汁でてかてかに光らせ
妹を背中にくくりつけ
べー独楽をまわし
筵の上で弟たちのおむつを乱暴に替え
みみずの耳に小便の雨をふらせ
そろりそろりとがに股で歩き
ごみの穴や落とし穴を掘ってはうめ
埋めては掘り
蜂の巣をつついて顔をお岩のようにはらし
裏の畑の肥溜めに落ち
何度も何度も何度も井戸水を頭から浴び
里芋の葉っぱの露を集めて墨をすり
習字の練習にはげみ(あまり効果はなかった)
蕗の葉をかざしてにわか雨のなかを
疾走し
蚊取線香の煙に咳き込みながら
蚊帳の海にもぐり込み(いつも蚊が入ってしまった)
ふとんの上でクロールの訓練をし
富士の山を仰ぎ見ながら
霜柱踏んで登校し
隙間風の吹き込むバラックの校舎で
墨で黒く塗りつぶした教科書で民主主義を教えられ
脱脂粉乳の粉にむせ
ちんちんどんどんちんどんどん
ちんどん屋と羅宇屋のあとを遠くまで追いかけいき
道端にしゃがんで畳屋や鋳掛け屋の作業にながいこと見とれ
三角ベースや
貸し自転車の三角乗りに熱中し
木の上の秘密の家で貸本を回し読みし
街頭テレヴィのプロレス中継に激昂し
鉄屑や銅線や鉛管をひろい集め
大金をつかみ
アイスキャンデーを食べすぎ
腹をこわし
脱兎のごとく便所に駆け込み
ジーンズをはいた進駐軍の子どもたちをちょっぴりうらやみ
押入れの奥で鉱石ラジオの雑音に耳を傾けながら
少年少女世界文学全集に読みふけった…
そんなふうにして
ぼくらは育ったのだ
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